第4回音声ガイドで映画鑑賞『どん底 4Kレストア版』バリアフリー上映
2024年 1月27日 会場 川崎市アートセンター小劇場 10:00~12:30
特定非営利活動法人KAWASAKIアーツ バリアフリーシアター制作チームの高松啓子さんと山田敏明さんを講師にお招きし、「音声ガイドで映画鑑賞 『どん底』 4Kレストア版 バリアフリー上映」と題して、視覚障がい者の方々と共に実際の副音声ガイド付き映画を鑑賞した。
バリアフリーシアター制作チームは、今から30年ほど前のKAWASAKIしんゆり映画祭創世記、「私たちも皆さんと一緒に映画を観たい」という視覚障がい者の方の願いから一念発起。最初は手探り状態で、試行錯誤の末にできあがったのが副音声ガイド付き映画である。この活動はその後改良を重ね、KAWASAKIしんゆり映画祭に定着することになる。KAWASAKIしんゆり映画祭では年に1本、川崎市アートセンターでは年に3~5本の外国・日本の映画に副音声ガイドを付け、バリアフリー上映を行っている。現在16名のスタッフがこの活動に参加している。
今回の映画上映には4名の視覚障がい者の方と、付き添いボランティアの方2名が参加した。付き添いボランティアの方は駅まで直接迎えに行くこともあるそうだ。視覚障がい者のお一人は「なかなか観られない映画で、ジャン・ギャバンの若い頃を観てみたい」とにこやかに話されていたのが印象的だった。
映画鑑賞の前に高松さんから「バリアフリー上映には2種類あって、今回はオープン式で行います。オープン式とは原音とガイド音声が同時に流れることです。普段はFMラジオを使ってイヤホンを通して副音声を聞く方式です。」と説明があった。
映画が始まる前に「私の声が聞こえますか?雑音が入るときは係の者にお知らせ下さい。」とアナウンスがあり、その後映画の解説が入った。原作について・監督の紹介・主人公の説明・配役の紹介・男優女優について・台詞の日本語吹き替えをするそれぞれの担当者・あらすじなど、予備として知っておいた方がより楽しく鑑賞できる説明だと思った。鑑賞後の講師の方のお話で、古いフランス映画の特徴としてエンディングロールが無いとのことだったので、最初に説明をしっかり行ったのだと納得した。
『どん底』上映中はみんな映画に集中して鑑賞していた。
上映後再び高松さんと山田さんに登壇いただき、副音声ガイド制作に関する舞台裏のお話や苦労など伺った。今回の映画で俳優の台詞を担当した声優の方が、実際の台詞を生で実演して下さった。その声色に「おーっ!」という拍手が起こった。感情の込め方が素晴らしく、今観た映画の場面を想起させてくれた。台詞の少ない俳優の場合はボランティアが吹き替えを担当することもあり、また場面説明などの副音声は一人が担当し、感情を込めないで淡々と話すのだそうだ。
副音声や日本語吹き替えを入れるにあたり、ポイントがたくさんあった。
*原語の雰囲気も味わっていただけるように、少し音をずらして流す。
*登場人物を、見た目・体格・年齢など言葉で端的に知らせる。
*場面や風景、大部屋の様子など想像できるように言葉で表現する。
*登場人物の台詞に間が無い場合は、人となりの説明は後回しにして、その場の 会話を優先して入れる。
*歌の場合は早めに歌詞を入れてしまい、その場の様子を続けて詳しく説明する。*名前のついている人物は名前を、名前のついていない人物は台詞の中から特徴 を探して名指しする。または見た目で呼び名を考える(立派な背広の男とか。)など、どれ一つとっても大変な作業だなと思った。
今まで100本以上の映画作品の副音声を作成し、貸し出しも行っているので是非活用して欲しいとのことだった。また随時スタッフも募集しているとのことなので、是非皆さんも参加して欲しいとおっしゃっていた。
今回私たちは、視覚障がい者の方と共に同じ映画を鑑賞した。普段考えなかった事を改めて気づく場面があった。それは誰もが一緒に、同じ場面で同じように笑えるということ、感動できるということである。思いを他の人と共有できることがこんなに素晴らしいことであると、改めて感じることができた一日であった。
(文責 齋藤厚代)