【アート講座】の記事

波乱のロシア ~音楽文化の底力を知る~(2021/12/4)

投稿日:2021年12月13日

ロシアに造詣の深い著名なジャーナリストの小林和男先生についてはテレビを通じて存じ上げていたが、生の声をお聞きするのは初めてで、加えて筆者の近所に住まわれていることもあり、大変楽しみにして開講を待った。ショパンピアノ協奏曲第1番第1楽章の音楽をバックに颯爽と登場された先生は声の張り、真直ぐな背筋等々とてもお年を感じさせない姿勢で最後まで貫かれたのにまず驚いた。文化とは気づかないうちに影響を広げていくものだ、という言葉から講義は始まった。

 

「国が崩壊するということはどういうことなのか。強権時代の強いソ連から、ゴルバチョフのペレストロイカを経て、そのゴルバチョフも側近のクーデターにより失脚するなど混乱の時代は続き、その中で当事者のゴルバチョフ夫妻とインタビューをする機会を得た。」と話をされ、夫妻のインタビュー映像や裏話をご披露いただいた。

続いてその混乱の中で文化の力を実証したロシアの三人の芸術家について話を進められた。「一人目は指揮者のゲルギエフである。彼とのインタビューの中で、ゲルギエフは国の混乱や体制のせいでだめになるような文化は文化とは言えない。私は必ず立て直せると断言し、その後実際に若い芸術家を育て社会に大きな影響を与えた。」とゲルギエフの力を大きく評価され、そのインタビューの際の特別報道番組作成の約束の話や、個人的な交友関係の深まりも交えて説明いただいた。

「二人目はチェロリストのロストロポービッチである。ソ連当局から迫害を受けたソルジェーニーツインに支援の手を差し伸べたため、当局から睨まれて演奏機会を奪われ最終的には国籍剥奪といったペナルティを負った。海外で活躍したが、最終的にはゴルバチョフがロストロポーヴィチ等二人のロシア国籍を回復した件は、文化が政治を動かす事例と言えよう。」と当時の実情を説明され、「NHKの地球シンフォニー企画に関する先生とロストロポーヴィチのエピソード」も楽しく拝聴した。

「三人目はバレリーナのマイヤプリセツカヤである。彼女は芸術を枠に嵌めようとするソ連政権と戦った。彼女の72歳時の『瀕死の白鳥』の演技にはまさに人生が詰まっているという感じがする。彼女は夫をソ連政権に人質に取られ亡命もできなかった。」と紹介され、彼女を扱ったドキュメンタリーの制作エピソードもご披露いただいた。

最後にプーチンの人柄について語られた。「日本人の彼に対する印象は悪いが、実際にプーチンと出会ったときは気さくな人で柔道の絡みで礼にも通じ、芸術にも理解力がある。アメリカからの情報の影響が強い日本においては、悪いプーチン像が出来上がっているが、表面的にプーチンを見ないほうが良いと思う。ロシアという国の中で、文化の重要度はお話した通りとても大きいと思う。」で締めくくられた。

映像に加え、取材者にしかわからない貴重なエピソードを交えた面白い話を聞かせていただき、さらに先生と取材対象者の信頼関係の強さ、取材対象者の息遣いや信念をひしひしと感じ、テーマの意味が良く理解でき本当に堪能した時間であったと思っている。先生今後もますますお元気でご活躍ください。含蓄のあるお話をありがとうございました。

投稿文 アメリカン  記録写真 E-river